北原 洋明
ディスプレー生産における世界の中心地といえば中国だ。2025年6月6日に京都市で開催された「第46回FPDフォーラム」には、中国ディスプレー協会(中国光学光電子工業協会液晶分会、CODA)の常務副理事長兼秘書長の梁新清氏が参加し、世界および中国のディスプレー産業の現状と今後の方向および日中ディスプレー産業の協業について述べた。みずほ証券のシニアアナリスト中根康夫氏からも、激動する世界市場の見通しを、個々のディスプレー応用製品市場ごとに詳細に見通す講演が行われた。
直近のトランプ米大統領による関税政策の行方はまだ不透明であり、その状況によってはディスプレー産業のバリューチェーンも大きな影響を受ける。一方でこれまで数十年にわたって構築されてきた世界規模のバリューチェーンを急激に分断することが産業の発展にとって大きなマイナスになることは明白であり、そのような状況を回避するためには、地域や企業の新たな協業の方向を目指す必要がある。
ディスプレー産業の現状と中国の現在地
CODAの梁氏は、世界および中国のディスプレー産業の現状と今後の方向に関して講演し、日中ディスプレー産業の一層の協業についても言及した。

2024年の世界全体のディスプレー完成品を含む産業規模は約1兆米ドルであり、ディスプレーパネル及びモジュールの出荷面積は2億6474万平方メートル(前年比9%増)に達する。技術別では、TFT-LCDが54%、AMOLEDが35%を占め、AMOLEDは28%の成長率で急速に拡大している。
中国での新型ディスプレーの出荷面積は1億9851万平方メートル(前年比13%増)であり出荷面積では75%のシェア、生産額では49%超のシェアを占める。生産能力では、TFT-LCDは世界生産能力の70%を中国が、AMOLEDは50%以上を中国が保有している。材料現地化率は71%、装置国産化率は22%、部品国産化率は75%と、産業チェーンの成熟が進行している。技術面ではLCDの大サイズ化、OLED・フォルダブル技術の成熟、マイクロLEDやQLEDの進展が著しい。
ディスプレー産業の課題と将来の方向
現在、ディスプレー産業は生産過剰とAI(人工知能)時代に向かう変革期に直面している。市場では、従来用途は飽和し、供給過剰と競争が激化。パネルメーカーは品質と生産性向上によるコスト競争力強化による差異化で生き残りを図っている。一方で、AIの急速な拡大が、スマートフォン・自動車・広告などの分野でディスプレーの進化を加速させようとしており、業界はAIによる変革と機会に積極的に対応すべき段階にある。
AI時代に向かうためには、技術革新として現実世界と仮想世界を融合させる空間映像技術や、指や瞳の動きによって映像がリアルタイムに変化するようなインタラクティブ性が求められる。応用市場の拡大では、スマート交通・医療・家庭への展開とAIとの融合が鍵になる。さらには、産業連携として、グローバル協調により、AI時代の課題に共同で対応し、持続可能な産業を築く必要がある。
日本の支援で立ち上げた中国最大のディスプレーイベント
CODAは、2010年に日本の企業とともに、最先端のディスプレー技術と産業を議論する「Display Innovation China(DIC)」を北京で立ち上げた。このDICは毎年継続的に開催され、2019年には上海に場所を移して展示会も併設し、現在では中国最大のディスプレーイベントになっている。
CODAが日本企業とこのイベントを立ち上げた背景には、当時、日本が世界のディスプレー産業をけん引していたことがある。中国の量産メーカーと、ディスプレー産業の基盤を支える日本の設備メーカーや材料メーカーが協業することで、中国のディスプレーを世界で戦える産業に育てる大きな目標があった。日本の材料・装置技術と中国の量産力は互いに補完関係にあり、今後の技術革新に不可欠であることを認識していた。その後のDICには、韓国、台湾および世界の業界関係者も参加するようになった。
DICは2010年の開催以来、14回の開催実績を持ち、業界最高レベルの国際交流の場となり、サプライチェーン全体を網羅する専門展示会に育った。梁氏は、2025年8月に上海で開催される「DIC Forum」(会議) と「DIC Expo」(展示会)への継続的な参加によって、日本と中国の協力で育ててきた産業のバリューチェーンをより高めていこうと訴えた。
見通せない関税政策の先を予測する中根氏
今回のFPDフォーラムの講演の最後に登壇したみずほ証券シニアアナリストの中根氏は、最初に世界のディスプレー産業のバリューチェーンに大きな影響を及ぼすトランプ関税について触れた。中根氏は、フォーラム当日時点で想定できる税率になれば「テレビやAIサーバーなどメキシコで生産されているものは比較的影響が小さいが、中国やベトナムで生産しているスマートフォン、ノートPC、ゲーム機などは影響が大きく、対策として生産拠点をインドへシフトさせるくらいしか手はない」とした。ただし、関税率は今後もどこに落ち着くのか、不透明であるため、その方向性を見極めていく必要がありそうだ。
また、米Apple(アップル)のフォルダブルスマホの見通し、OLED化に抗するLCD、「AppleVision Pro」の次の方向、G8OLEDラインの動向、インドのLCD投資と半導体投資など、様々なトピックについて2030年までの動向に関して緻密な分析を披露した。
このうち、アップルのフォルダブルスマホについては、「最速で2026年の発売が想定されているが、品質など慎重を期すことが想定され、実際には2027年にリリースされる」と予測した。LCDについては、「アップルは全面的にOLEDに切り替える方向であったが、ここに来てLCDの採用は続けるもよう」だとした。「LCDはミニLEDバックライトのRGB3原色化で性能を進化させており、このままではコストを含めてOLEDに勝ち目がない」というのが中根氏の見 立てだ。
Apple Vision Proについては、「初代の売れ行きが想定を大幅に下回り、コスト低減を前提とした後継機の仕様にアップルはまだ迷っているようだ」と分析した。具体的には、「マイクロOLEDを使い続けるのかガラスOLEDにするのか」といったような点だ。
G8OLEDラインについては、「IT向けだけでは生産能力は埋まらず、結局はスマホ向けパネルも造らざるを得ない」と見るが、「蒸着マスクの大型化などの技術的課題をクリアできるかなど、現状ではまだ見通せていない」という悩ましい状況を伝えた。また、インドのLCDや半導体の投資については、「まずはLCDへの投資で弾みをつけて、半導体にも向かうべきだろう」との見解を述べた。
