北原 洋明
「第46回FPDフォーラム」が、2025年6⽉6⽇に開催された。2000年以降、京都市で年2回開催されるディスプレー業界の講情報共有と交流の場である。今回の参加者は132⼈。「Display NEXT、技術の“深化”と産業の“融合”」という全体テーマの下、ディスプレー技術およびディスプレー産業に関する講演、展⽰が⾏われた。中国のディスプレー協会(CODA、中国光学光電⼦⼯業協会液晶分会)の秘書⻑も参加し、⼣⽅には盛⼤な交流会が催された。



「第46回FPDフォーラム」講演会⾵景
ディスプレー技術の深化を⽬指すXRとQD、⽇本初公開が相次ぐ
ディスプレー技術としてのDisplay NEXTのキーとなるのは、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)/MR(複合現実)などを含むXR(クロスリアリティー)とQD(量⼦ドット)である。今回のFPDフォーラムでも、この2つのテーマが取り上げられ、「XR NEXT」 と「QD NEXT」と冠した講演と展⽰が⾏われた。
XR NEXT では、台湾・群創光電(イノラックス)の⽇本法⼈イノラックスジャパンが、VR⽤2117ppi(ピクセル/インチ)の超⾼解像度LCDパネルの技術に関して講演したほか、中国の SIDTEK(Semiconductor Integrated Display Technology)が超⾼精細・⾼輝度のマイクロOLEDの製品と製造に関する戦略などを講演し、実物の展⽰も⾏った。SIDTEKは、これまで中国内の展⽰会や⽶国の展⽰会である「CES」「SID Display Week」などでは実機を展⽰してきたが、⽇本での講演と実機のデモは初めてである。
QD NEXT では、⽇本のQD材料メーカー、昭栄化学⼯業、TOPPANのQD技術開発部、産業技術総合研究所発ベンチャーの量⼦材料技術が展⽰を⾏い、各社のQD技術をアピールした。昭栄化学⼯業とその⼦会社である⽶Nanosysが展⽰した「UVマイクロLEDとQD⾊変換層組み合わせ」によるウオッチ型パネルの試作品は、2025年1⽉に開催された「CES 2025」において Nanosysのプライベートルームに展⽰されていたが、こちらも⽇本では初披露である。

Display NEXTで半導体技術との融合進む
ディスプレーが2次元映像の表⽰デバイスから3次元の空間映像デバイスへと移⾏する際のキーとなるのは、半導体技術との融合である。ディスプレーが2次元の平⾯表⽰デバイスとして⼤画⾯化や⾼精細化で進化してきた背景には、1990年代のガラス基板上のTFT駆動回路技術の開発が⼤きな貢献をしている。ガラス基板を第10世代サイズまで⼤型化することで、1mサイズの
⼤画⾯テレビが実現できた。
2020年代は空間コンピューティングの時代に⼊り、3次元の空間映像を表⽰するマイクロディスプレーが登場し始めた。ここでは駆動回路にシリコンCMOS(相補性⾦属酸化膜半導体)回路が⽤いられ、ディスプレーと半導体の技術が融合へと向かい、半導体のサプライチェーンを利⽤しながら産業構造も深化している。
半導体技術との融合として今後の重要な⽅向について注⽬されているのが、半導体パッケージにガラスを活⽤する動きである。ディスプレー製造技術として培ってきたガラスのノウハウを半導体パッケージに応⽤することを⽬指している。このトレンドに対して、本フォーラムでは、イトウデバイスコンサルティングの伊藤丈⼆⽒が、元コーニングジャパンの技術者の⽴場からディスプレー⽤ガラスと半導体パッケージ⽤ガラスの特性を解析した報告を⾏った。
ディスプレー産業における⽇中協業と関税政策の⾏⽅
産業としてのディスプレーは、これまで様々な応⽤製品を産み出しながら成⻑してきたが、ディスプレーパネルの⽣産規模は既に飽和状態になっており、その中で多くのディスプレーメーカーが⽣き残りをかけて将来戦略を模索していかなければならない。つまり、⽣き残りのためのDisplay NEXT戦略である。
ディスプレー製造に必要な様々な部材や設備は、これまで構築されてきた世界的なサプライチェーンによって⽀えられている。トランプ⽶⼤統領による関税政策に端を発した各国の関税政策⾒直しによって今困難に直⾯しているが、ディスプレー製造のサプライチェーンは数⼗年をかけて構築されてきたものであり、単純に関税で分断してしまえば⼤きな混乱が起こることは
⽬に⾒えている。ディスプレー製造にとってのDisplay NEXTでは、地域間の新たな枠組みが必要である⼀⽅、巨⼤な製造能⼒と市場を有する中国と今後どのように付き合っていくのか、新たな産業形態を創り上げていく視点も必要になってくる。
CODAの常務副理事⻑兼秘書⻑の梁新清⽒は、今回のFPDフォーラムのために来⽇し、参加者に⽇中ディスプレー産業の継続的な協業の重要性を訴えた。衰退が著しい⽇本のディスプレー産業だが、CODAは現在でも⽇本を重要なパートナーとして⾒ていることが伝わってきた。

講演会の最後に登壇したみずほ証券の中根康夫⽒は、スマートフォンパネル、特に⽶Apple(アップル)をはじめとした個々のディスプレー製品の今後の市場の動向に関して緻密な分析を
⾏った。今後の⽅向に関しては、トランプ関税の⾏⽅によって⼤き左右されるため、影響の⾒極めが必要であるとした。
産業を⽀えるエコシステム
FPDフォーラムの特徴は、講演だけでなく企業やアカデミアがそれぞれの貢献をアピールする⼩展⽰もあることだ。今回も12社による⼩展⽰が⾏われ、講演だけではカバーできない個別企業や⼤学/研究所/学会などがアピールを⾏った。このような内容は産業のエコシステムを⽀える重要な活動であるといえる。





第46回FPDフォーラムの展示風景
